皆様、こんばんは。
姉妹店レストラン・ヴィノテカサクラの荒井です。
突然ですが、「キャンティ クラッシコ」というワインをご存じでしょうか?
イタリアを代表するDOPワインであり、日本でもコンビニエンスストアからレストランまで、様々な場所でその名前を目にする機会があります。
そんなキャンティクラッシコの成り立ちはイタリアワインの中でも特出した長い歴史を持っており、
イタリアらしい混沌たる出来事の重なりが作り上げてきました。
今回は、社内試飲会第4弾として、
キャンティ クラッシコ地区で長い歴史を持つ、バローネ リカーゾリ(Barone Ricasoli)試飲会を開催致しましたので、
キャンティ クラッシコの歴史についてご紹介していきます。
まだキャンティ クラッシコとキャンティが明確に区別化される以前のお話。
キャンティの歴史の始まりは14世紀まで遡ります。
プラートという街で誕生したキャンティは、当時フィレンツェの貴族やリカーゾリ家によって急激な発展を遂げました。
その普及はすごまじい速度で、
地産地消のデイリーワインに留まらず、一躍世界的人気を誇るワインとなりました。
1716年。
当時世界的なブームを巻き起こしていたキャンティでしたが、
それ故「キャンティ」と名を冠した偽ワインが横行してしまいます。
キャンティの風評被害を懸念した時のトスカーナ大公コジモ三世は、キャンティを生産可能な境界線を定めました。
この線引きが後のDOCGやDOCの概念の基礎となります。
コジモ三世の指定したこのキャンティの区域は、現在の「キャンティ クラッシコ」の生産可能地域とほぼ一致しており、
今日のキャンティ クラッシコの根幹となったと言えます。
この線引きによって18世紀の間、キャンティは輝かしい名声を手に入れ、イタリアのトップワインへと登りつめます。
しかし19世紀から20世紀初頭にかけて、大きな二つの出来事によって、
キャンティは世界的な評価を欠如し、憂鬱な歴史を歩むこととなります。
1つ目は1872年のこと。
時のリカーゾリ家の男爵、ペッティーノ リカーゾリ男爵はキャンティの固くて厳めしさを改善したいと、
「サンジョヴェーゼ70%、カナイオーロ20%、マルヴァジア(白ブドウ品種)10%」というブレンド法を考案しました。
このブレンド法によりキャンティは若いうちから楽しめる気軽なワインとなりました。
その反面、シリアスさに欠けた短命なワインへとなり下がるきっかけとなってしまいます。
2つ目は1932年。
キャンティの経済性に着目したコネリアーノ大学のダルマッソ教授は、
キャンティ境界線の拡大を提案します。
これによって、再度キャンティの名を冠するワインの大量生産が始まります。
中には粗悪なものまで流通するようになり、
キャンティは「安かろう、悪かろう」なイメージが出回り始めてしまいます。
これに対して、キャンティブランドの崩壊を防ぐため、
フィレンツェとシエナの間で、伝統的にキャンティを産出していた優良生産者らが立ち上がりました。
これが、キャンティ クラッシコの始まりです。
1924年、33の伝統的な生産者が品質保持を目的として「キャンティ クラッシコ協会」を設立します。
いわゆる品質保護協会です。
これによって、1932年にはキャンティ クラッシコとキャンティが全く別のワインとして、初めて明確に区別されます。
その後の進展は目覚ましいもので、
1967年にキャンティがDOCG認定を獲得します。
ここでも、キャンティ クラッシコ地域の伝統的な生産者に限り、エチケットへの「クラッシコ(Classico)」表記を行っていました。
1996年にキャンティ クラッシコがキャンティDOCGから独立し、単独でDOCGになります。
これが今日のキャンティ クラッシコの成り立ちです。
現在、キャンティ クラッシコ協会はおよそ580の生産者によって成り立っています。
今日ではリカーゾリ男爵のレシピであった白ブドウ品種を使用したブレンドは禁止されており、
キャンティ クラッシコは更なる高みへと歩み始めています。
その証拠に、サンジョヴェーゼ100%での醸造や、20%までの国際品種のブレンドまで認められるようになりました。
そして2014年、キャンティ クラッシコの新たな試みとして、
当時のキャンティ クラッシコ協会の会長で、カステッロ ディ アマの現オーナーであるマルコ パランティによって、
「グランセレツィオーネ(Gran Selezione)」が制定されました。
自社畑のブドウのみの使用や、最低30ヶ月以上の熟成などが定められたこの規定は、
キャンティ クラッシコの高級ワインとしての挑戦が窺える新たなステップと言えます。
長い歴史を歩んできたキャンティ クラッシコですが、
その混沌とした伝統の中で、トスカーナの人々の生活に寄り添い、大きな大志を与えてきました。
グラン セレツィオーネの制定により、キャンティ クラッシコは、イタリアワインにおける新たな立ち位置を模索しようとしています。
トスカーナの魂ともいわれるこのワインは、未だ発展途上なのかもしれません。
イタリアワインの顔ともいえるキャンティ クラッシコ。
これからイタリアワインを飲み始める方も、普段から飲む機会の多い方も、
キャンティ クラッシコを飲まずして、イタリアワインは語れません。
蒸し暑くなってきたこの時期にぴったりの赤ワインでもあります。
ぜひご家庭でもお試し下さい。
ではまたチャオチャオ。